金 子 兜 太       句集 「谷 口 道 子」   
 
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       句集 「谷 口 道 子」 
 


  谷口道子(たにぐち みちこ)

  1942年生まれ。本籍地である京都にて成人まで過ごす。結婚後、四十年近くを高知で
  暮らし、自分の転勤・夫の転勤に伴い室戸、仙台、尾道へと居を移し、現在に至る。
、  1988年、金子兜太著「兜太の現代俳句熟」で長年の疑問氷解。この書で俳句を学び
  始める。
   1991年「海程」同人の村田清に師事し毎週3句出句の猛勉強を開始する。
  1991年「海程」会員、1995年現代俳句協会会員、2002年「海程」同人、2007七年
  「虎杖」会員。2008年度虎杖賞受賞。







     薄紅子豚

      早春、良く晴れた日の土佐湾、水平線上にはあた
     かも子豚のような雲の塊、それもピンク色のまるま
     ると可愛い雲が一列に並んで現れる。この雲を見る
     と「春が来た」と実感する。「沖に豚雲春が来た」。
     これをなんとか句にしたいという想いが募る。まず
     「豚雲」だが、羊雲でも綿雲でもない。「豚雲」と表
     現するしかない。あの雲はホントにかわいらしいピ
     ンク色、ピンクの子豚雲でいこう。「子豚めく雲の
     隊列」「春の海、水平線、ピンク」これらの言葉を
     転ばしている内に一年、また一年と過ぎていった。

     ある年、ふっと頭を過ぎつた事。「自分にはピンク
     としか思えない色だが、ピンクは桃色、ピンクサロ
     ンではないがあまりにけばけばしい豚を連想され、
     違和感を与えているのではない」。では何色に?そ
     うだ!薄紅色!

      最初の実感である「春が来た」喜びは横に置き、
     「春の海薄紅子豚の雲沖に」に到達した。金子兜太
     先生から「薄紅子豚」が良い。土佐の海に暮らす女
     性らしいと評して頂けた。

      兜太先生はある本で「いわなくてもいいことは言
     わない。これならいえるという心に当たる表現は?」
     という問いに「自分の場合、集中して、集中して、
     よく禅でいう百尺竿頭一歩を進む、あの境地がやっ
     てくる」と答えておられる。「薄紅子豚」を得るま
     でには六年を要した。来る年も来る年も自問自答し
     た結果、この言葉にたどり着いたのだが、この時に
     は禅問答の解を得たような悟りの気分になったこと
     を記憶している。

      的確な言葉を掴むためにはこのような方法論でよ
     いのだろうが、何年もかかってしまうのは集中力が
     足らないのだ。「ピンク、豚雲」のようにある言葉
     に捕まるとどうにも抜け出せなくなるのが私の悪い
     癖である。「あっさり捨てよ」。俳句は態度の文学と
     もいう。生き方そのものが現れている。「軽やかに
     捨てよ。そして集中して掴め」。薄紅子豚から学ん
     だ私の座右の銘である。






     縦縞に天垂れ来たりて植え田の雨

     枕辺の瀬の音蛍生まれしか

     人工衛星冬の星座に至近の帆

     にえきらない白だよ満開の梅よ

     春の海薄紅子豚の雲沖に

     黒夕焼け乗ってる地球重いから

     生涯遍路浜に野宿の若者と

     濡れ睫虚空へ端座の雨の犬

     鮎の川ドッコドッコと雨上がる

     くちびるにひとひらの雪優しくなれと

     老いて学ぶ正しい歩行夏銀杏

     そこだけの真闇持て来る蛍かな

     ずうずりずんジャングル掴む象の足

     象歩む父らの眠る森の傍ら

     年暮れる棒鱈どこまで頑固なの

     日数ほど言葉増える児春の雲

     春の宵ビルに人々透けて見ゆ

     学究は私の意思です春の虹

     おでんのよう村の寄り合い更けてきて

     あるはずと歩く正面冬の虹






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