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句集 『山河来て』 徳永義子

著者略歴 徳永義子(とくなが・よしこ)
大正8年12月28日 朝鮮京城生
昭和18年5月 結婚
昭和19年3月 長男出生(早産)
昭和19年5月 夫出征 戦死
昭和20年8月 敗戦
昭和20年11月 大分県中津市へ引揚
昭和21年9月 宮崎へ 以来宮崎在住
昭和42年初め 福富健男、あつ子夫妻の紹介により、俳句入門
「形象」(前原東作氏、誠氏兄弟、岩尾美義氏)、
宮崎俳句研究会(山下淳氏:俳誌「錆」のち「流域」)に参加
山下氏の紹介により、「海程」(金子兜太師)に参加
昭和55年 「形象」休刊により退会
その後「鋭角」のち「穹」へ参加。阪口涯子氏と出逢う
涯子氏逝去後八木原祐計氏に引き継がれたが終刊となる
平成21年 現在、「海程」「流域」「樹」「WA」「卵の会」同人、
現代俳句協会会員。宮崎県現代俳句協会、
宮崎県俳句協会、九州俳句作家協会、等会員

序に代えて 金子兜太
質問者(一ノ瀬タカ子・今井竜蝦・安井昌子)
総だけの軍旗焼いてのち骸髏 徳永義子
ふさだけの はたやいてのち しゃれこうべ
質問
重くて悲惨な内容ですが、映画などの映像を見ての作句でしょうか。作
者の力量をうかがわせる句だと思いました。
金子
この作者は戦争未亡人。だからその思いから出てきた句だ。
質問 戦争未亡人とうかがえば、この気持ちがわかります。
金子
映画にはこのような場面・風景はよくあるのだが、最後を「骸髏」で結
んでいるのがこの作者の飛躍力だ。この飛躍は普通ではなかなかできない。
(軍旗焼いてのち倒れたり)などでは、映画丸写しになってしまう。
自分の旦那の骨が頭にあるのだろう。
このような句はわれわれの世代ではよくわかる。が、いまの俳句界全体にど
れほどの影響力があるかということになると難しい問題だ。体験者や戦中に近
い年齢の人ならわかるだろうが、若い人では読み切れないかもしれない。また
読めても、これが句だろうかと問題が残るのではないだろうか。
私は「骸髏」と飛躍したことで俳句としての主張ができたと思っている。
新・秀作鑑賞(四一〇号より)
少女老ゆ永き戦の長々し水尾 徳永義子
金子兜太
「少女老ゆ」が「永き戦」と重なって身心に氾みるおもいなのは、戦争を知る
者だからでしょうね。推薦者安井昌子の言葉に余韻あり。作者徳永義子は小生
と同年の戦中派。戦中戦後の営みが、「長々し水尾」に籠る。苦労と言うも愚
かなり。こうした俳句が少なくなっている。事実を回想風に綴る句は、このと
ころ増えているが、こんなふうに激情を込めて書き切る句は少なくなった。こ
の激情の句が、いまの時代から浮き上っている印象ありとすれば、「永き戦」
に不感症化していることで、軽薄で崩れやすい時代といえる。

自選十句
山河来て瞳のはばに星拾います
星空へとどいた蛍あなたかも
木犀を衛士に朽ちゆくわが砦
遠海鳴り兵の名はなき豹兵団記
総だけの軍旗焼いてのち骸髏
たましいがころんと箱に小石でいる
海流は鬼哭啾々鳥渡る
海を見た二足歩行で森を出て
少女老ゆ永き戦の長々し水尾
泰山木重機関銃朽ちて土

あとがきから抜粋
昭和四十二年、福富健男・あつ子夫妻のお世話で俳句に足をふみ入れた。「形
象」(前原東作氏・誠氏兄弟、岩尾美義氏)へ、同時に宮崎俳句研究会(山下
淳氏)に紹介された(俳誌「錆」後に「流域」)。山下淳氏の口添えで「海程」
(金子兜太氏)へ入れて戴いた。山下氏へ金子氏から受け入れ承諾のハガキと
いうのを見せられたと思い出した。
新入生は急に三俳誌に所属することになった。書かれたものを読んでもわか
らないことが多く、宮崎の句会では話をキョロキョロしながら聞いて何かを吸
収しょうとしていた。そのうちいくらか理解出来るようになっていった。
「形象」は昭和五十五年休刊となり、後復刊したが、そのときは参加しなかっ
た。その間に「鋭角」のち「穹」に参加、阪口涯子氏に出逢った。涯子氏逝去
後八木原祐計氏に引継がれたが、数年前終刊となった。
整理整頓大不得手なので永年の句稿散逸少なからず。句集をとは思っていな
かったのであまり気にならなかった。が、米寿となったとき気が変わった。
「形象」が全部残っていると伝えられたので、私関係を取り出して貰った。そ
れから選んで句集『霧』とした。その他の、「海程」「流域」などの句を出来る
だけ集めて選び、この『山河来て』としてまとめた。
『霧』の句を少しここに書き加えさせて貰う。
假死の子はさかさにふられ霜の朝
指洗う兵士らふいに骨曝され
コルク噛む母砂原の闇に吹かれ
髪うすく苅り少年まぶしい瞳の湖
ビルの向う空間ぎっしり草の兵
光る樹のかたちふくらみ裸足のおどり
昨日から来て紅い花さがす水の底
螢野を彼駆け他国の郵便車
けもの炊いて凝脂の底の海を見る
樹々切って一匹の猫すきとおる
石敲き石をたたいてみどりおそろし
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