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東国抄を纏めた句集『日常』2009月6月刊行されました
東国抄(海程に掲載中です)
2008年10月 225 金子 兜太
雁〈かりがね〉に真葛刈られて岩ばかり
通草笑む牛笑うごときかな
赤ん坊山法師には代緒の実
縁ありてわが枕頭に兜虫
比叡山にて(三句)
最澄作薬師如来に木の葉髪
回峰修験鹿の影湖影のなかに
俳句仲間も僧侶も歩く鹿の山
2008年8.9月 224 金子 兜太
古代なり令法の花に熊ん蜂
正面に自さるすべり曲れば人
稲妻形に飛び立ちし鴫夢に
灯にわずか揺れる寒天食べておる
地を叩くよう鴉鳴く夏だ
遠稲妻宵寝のあとの曇り空
ばさばさと尿瓶洗えば草ひばり
2008年7月 223 金子 兜太
昭和通りの梅雨を戦中派が歩く
梅雨の街青年狂となり潰(つい)ゆ
雨期の戦場雑踏の街日暮かな
山法師散乱の日苞に雨情
蕉翁に
脳天や雨がとび込む水の音
この夏森南中の蠍座を蔵す
外は緑林と恩いつ朝の元気かな
2008年6月 222 金子 兜太
高野山(五句)
山も谷も若葉が埋める空海なり
椎の花山盛り上げて高野なり
金剛三昧院石楠の花は智慧だ
わが夢寐に石楠の花厚く溜る
いま石楠の高野その名の人も居て
黒川憲三他界(二句)
薄く口噤じ寛ぎの顔朴の花
稚気もありき日光山塊梅雨曇る
2008年5月 221 金子 兜太
峠越え野に春眠をむさぼりぬ
枕に亀虫朝から人は走るなり
花のあと魚影限りなく海に
萌黄山喚くもありしょんぼりもあり
鳥の巣より高き人の巣留守勝ちに
禁煙マークに頭ぶつけて八十八夜
其角に句あり「かたっぷり酒の肴に這せけり」
蛇も住む其角の庭のエスカルゴ
2008年6月 220 金子 兜太
手毯唄人は人影地に置きて
利根川(とね)越えてわが面(つら)叩き北風はしる
仏門に次郎直実寒牡丹
青饅に調子外れの演歌かな
飢えの語に身震いするよ春鴉
明けの荒星人喚く声泣く声
細腰で巨乳の君よ子持鯊
2008年5月 219 金子 兜太
何に開眼しかし開眼実千両
空っ風わが面(つら)叩くときに撫でる
木菟や野の風と陽溜りの余韻
都市の各所に冬の群集猥雑なり
母よりのわが感性の柚子熟るる
樹幹重なる向う雛祭の君ら
片目に鷹片目に訝しき女子(おなご)
2008年4月 218 金子 兜太
ふっくらと泳ぐジュゴンや春曙
春の海ジュゴン恋しやほうやれほう
ジュゴン恋うはわれのみならず春日影
お遍路やジュゴンにつづく海がある
アボリジニ跳び込んで抱きつくジュゴン
誕生も死も区切りではないジュゴン泳ぐ
今日までジュゴン明日は虎ふぐのわれか
2008年2・3月 東国抄217 金子兜太
ブーメラン亡妻と初旅の野面(のづら)
人と同居の狼ありき若水汲む
猪(しし)眠る水たまり枯葉一つ
冬眠の地上狐の親子かな
ここから覗く河原の陽ざしやがて霧
湯面(ゆおもて)に浮くほどの乳房白鳥来
冬眠の戦さするものなどいない
2008年1月 東国抄216 金子兜太
新月に浴後の躯一つ曝す
月日の麻痺の癒えゆく顔にかな
京都嵯峨野(四句)
天龍寺の東司にはしゃぐ旅の秋
ほのと紅葉し小倉山あり男四人
苔守る人ら白鳥渡る気配
晩秋の竹林青し木賊青し
去年今年男根ゆれて精おぼろ
2007年12月 東国抄215 金子兜太
囲を張りて蜘味の元気や誕生日
月の客白曼珠沙華老梅樹下
山芋掘る麓に牛や豚遊ぶ
母若しすがる少年は白露
殺意なしと人殺すなり昼の虫
尿意怺えて孤のときもあり晩夏光
時雨の音に勝る川音と暮す
2007年11月 東国抄214 金子兜太
青胡桃逢いたい人がやってくる
なめくじり麻痺の瞼がふと動く
きぬぎぬなどと愚の骨頂よ朝ひぐらし
蝉時雨夢ばかり見て朝寝して
政治家が喋り疲れて青蛙
大航海時代ありき平戸に昼寝して
山芋掘る足下はるばる遍路道
2007年10月 東国抄213 金子兜太
沖縄忌遠泳の潮に透く二列
天空遥かへ仰向けに寝て時移す
竹薮にあふれる螢火肘枕
螢火もろとも竹薮動く他郷かな
死火山の草焼くはるばると東国
山霧の触感もあり螢狩
父の日のわれら途方もない草山
2007年8.9月 東国抄212 金子兜太
しーと川音花の触れ合う音かとも
源流の廃屋埋む諸葛菜
街は土砂降り山に蕨ら首振りおらん
口まげてくしゃみするとは浅はかなり
禿頭に淑女の灸や山法師
雨の地下道五月が終るだけのこと
鼻光る真顔の男熱帯魚
2007年7月 東国抄211 金子兜太
言霊の脊梁山脈のさくら
信濃や讃岐の人来る萌黄山深く
遠桜あり僧うどんすすりおり
源流や子が泣き蚕眠りおり
生きるなり草薙走る山楝蛇
春蘭けて巨幹見つめて麻痺癒す
顔半分灸をすえられ五月かな
2007年6月 東国抄210 金子兜太
ぽしやぽしやと尿瓶を洗う地上かな
鰤起し熊や猪(しし)山並みに飢えて
オリオン南中教師も母も寒むそうに
蜃気楼旅人にフリーターも混じり
子馬が街を走っていたよ夜明けのこと
諸葛菜猫が猫背で往き来して
梨の花麻痺で曲つた顔曝す
2007年5月 東国抄209 金子兜太
医師もいて涙の話し寒紅梅
夜明け目覚めて白梅紅梅集めけり
薄氷の教師薄氷の母たち
食べ残すことになじまず青饅食ぶ
初花や麻痺の右顔は固蕾(かたつぼみ)
眼つむれば白く陽当り北帰行
「活きて老いに到る」とは佳し青あらし
2007年4月 東国抄208 金子兜太
孤独死の象や鯨や正月や
いのち気軽に尿瓶と暮らす河豚食べて
海鼠に酢われに褌 関わりなし
涙について眼科医語る妙な熱気
暖冬の竹幹に無数を睨む
温める白狼伝説寝正月
肥溜めに冬の花火の映りしこと
2007年2.3月 東国抄207 金子兜太
枕抱き猥歌いくつか寝正月
ほぐれゆき渡り鳥みな落着いた
際(き)りもなく薯食う関東流れ者
貧しさはそのまま流浪猪眠る
後の月トイレは四角且つひとり
宵に寝て寒涛の無数を見つむ
食べすぎて俳句が出来ぬ寒九かな
2007年1月 東国抄206 金子兜太
一日中光り貪り夜長かな
うろつく猫にこらこらと言う天高し
晩秋の腹にひと粒虫刺され
車間縫う青年のバイクの夜長
くらげの海人もさまよい始めたり
食われつ放しの鮪や牛や人間や
アスファルトを漂うくらげ去年今年
2006.12月 東国抄205
宵闇の海洋深層水と老童
昨夜は十六夜舞茸天ぷら絹かつぎ
稲稔る寝屋に一抹の人影
ビル街に白木槿フリーターのように
秋照りの湖よ土の香の最澄
紫苑に人々比叡の雲をみな見ていた
一遍忌はわが誕生日おはぎ二つ
2006.11月 東国抄204
頂上はさびしからずや岩ひばり
蝉がこんなに出て鳴く寺を猪歩く
夏の鹿夕日が月のごと赫く
法師蝉黄揚羽に会い挨拶す
凌霄花うらみつらみの一とくさり
露舐める蜂よじつくりと生きんか
虚も実も限無(きりな)く食べて秋なり
2006.10月 東国抄203
合歓の花君と別れてうろつくよ
牛蛙男日中(ひなか)の握り飯
ごうと黒南風禿頭ほどほどの湿り
宗左近他界(2句)
緑樹が埋める宙に左近の足の裏
縄文の蝉が詩人の腹の上
浜崎敬治他界(2句)
清潔な文字の連なり夏の文(ふみ)
緑原に雲映す川静かな意志
2006年8.9月 東 国 抄 202
眼の前に尾灯息白しいのち
遊雲いずれも山に宿りて妻は亡し
曇ってくる里山神楽妻問いに
ビルとビル繋ぐ人声(ひとごえ)春鴉
朴咲けり朝から旧き恋歌ばかり
柿若葉海光とどく頭(ず)や虚し
下手な考え休むに似たり蛍の夜
2006年7月 東 国 抄 201
春の朝陽に額に紅し妻亡きに
仮寝の夢に桜満開且つ白濁
春のこの峡若き日の亡妻(つま)橋の上
野火橋を一気に焼けり人の死も
橋越えて猪去る亡妻(つま)の仕草も去る
優しさに気力健(したた)か涅槃西風
人影も引鶴も橋上のまぼろし
2006年6月 東国抄200

金子皆子夫人逝去
楷の木がとても
お好きでした |
金子皆子逝く(7句)
春の庭亡妻正座して在りぬ
花を恋い楷を愛して春を眠る
カリン(漢字)蕾み梨花咲き妻を迎えおり
どれも妻の木くろもじ山茉萸山帽子
亡妻いまこの木に在りや楷芽吹く
妻病みてより大山蓮華咲かずなりぬ
瀬を早み朴の花ゆく帰らない
(パソコン上表記できない文字は書き換えています)
2006年5月号 東国抄199
枯橋に星降る夜を春という
橋上にかりかり囓る春の氷
狐火へ村人丸木橋架ける
おたまじゃくし見ていて眼科医と話す
十分前朧の街を歩いていた
橋上春雲糞尿は縁起もの
春の峡空に橋浮く生きてこの世
2006年4月号 東国抄198
戦あるな白山茶花に魚眠る
繭玉や脊梁山脈に風雲(かざぐも)
枯谷ゆく生死一如には未だし
ふるさと秩父眼(め)科医歯(は)医者に白山茶花
龍の名の炭焼きありき今も在る
三が日山芋すすりやまぬかな
2006年2・3月 東国抄197
雑煮食ぶ暦年齢(こよみねんれい)は虚なり
地震(ない)のとき躯もたげて寝正月
蔓うめもどき輪にしてぶら下げ禅僧来(く)
気余りて誤字誤読大き秋なり
冬紅葉新(しん)枯れやすししかし新
去年今年国会議事堂に餓鬼(チルドレン)ども
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