金  子  兜  太 

                     
メニュー情報  金子兜太『東国抄』                    TOP   BACK                                   

 ・金子兜太自選句

 

東国抄 2005/12 196

父の好戦いまも許さず夏を生く

陽がさせばまた蝉の声山の民

人々に蜩落ちてばたばたす

青栗に玉虫とまる仮諦(けたい)かな

蝉宇宙山の向こうに北西風

わが修羅へ若き歌人が酔ってくる


東国抄 2005/11 195


  
知床半島にて(6句)
昼三日月オホーツク太平洋と別る

温泉(いでゆ)の瀧カムイワッカに昼三日月

日本最北東端にあり昆布干せり

光苔つばめの巣あり誰もいない

風倒木牧牛に人の子が走る

いのちといえば若き雄鹿のふぐり楽し


東国抄 2005/10 
194

テロの世にしろじろと雨鉄線花

つと起きて鼻毛茂れる薄暑かな

   都井岬にて(三句)
霧の海ひつそりと春情の野生馬

蘇鉄雄花野性馬の男根のごとく 
              
屋久島かすかに見える岬に飛魚(あご)食うぶ

久に長崎爆心部に雷雨そそぐ


東国抄 2005/8.9  193

寒鮒にかこまれている宵寝かな

女の子可愛し五月蠅しリラ祭

春光漆黒わが堂奥に悔の虫

大山蓮華咲きたり青大将小屋に

心太真っ暗闇を帰り来て

  岐阜県兼山町に句碑
城山に人の暮しに青あらし

東国抄 2005/7 192

新緑に白波真人は鈍し

足投げだし両手を捨てて春眠す

 
熊澤さとし他界 (2句)
君の庭雪の旦暮と母のことば

君に来る谿の雪光遠荒波

  木村牛人他界(2句
君の絵に新緑の声牛人亡し

牛人に伊那路の井月花かたくり

東国抄 2005/6 191  

産土の欠伸の空の揚雲雀

わが胸に芽木赤らめり生きてあり

春秋や緑泥片岩に狐

野に眠る陽炎とともにいる時間

朝寝してふと突出の岩頭(いわがしら)

仲間若しよ声嗄れ鳥に春の荒瀬

東国抄 2005/5   190 

来るものを見詰めて暮す余寒かな

東京駅怒鳴る男と寒卵

凍蝶の雲散霧消夜明けかな

煤逃のわれ追いかけて白鳥来

恋猫の白〈しろ〉わが庭を侵犯す

わが庭の茜浄土に猫の恋


東国抄 2005/4   189  


  母百三歳にて他界(六句)

母逝きて風雲枯木なべて美し

母逝きて与太な倅の鼻光る

冬の山国母長寿して我を去る

北風の訪れ減りし亡母〈はは〉いかに

珍しや耳霜焼けて母の死後

母の歯か椿の下の霜柱


東国抄 2005/2.3   188 
  

いびきなる韻律ありて夜永かな

山法師紅葉せりいま届く日矢

山法師紅葉せり醉うて寝たか

夜空より蚕飼の屋根に鶴降り来

鼬走る額秀でし山の人

十二月二十二日豊山千蔭一年祭

心眼もて風土に生きて千蔭の忌



東国抄 2005/1 187  

みちのく曇る青葉潮も来ている

置いた眼鏡に蜥蜴来るなり鮮やかなり

東国なり蜘蜂の巣だらけで庭歩けぬ

死者は生者を煩わさずと月下美人

秋晴の水光(みで)りの近江戦さあるな

ふと覚めて燕の帰る寺にあり


東国抄 186  2004/12

癌と同居の妻に太平洋は秋

民主主義を輸出するとや目借時

螢火や人の眼の茫と哀しき

ゆつくりと飯噛む天道虫と居て

走らない絶対に走らない蓮咲けど

どくだみにタオルの落ちし夜明かな



東国抄 185    

      
原子公平死す (五句)
 黄揚羽寄り来原子公平が死んだ
                
 炎昼の茶毘白骨となり現(あ)れしよ

 炎暑の白骨重石のごとし盛り上る

 炎昼の友の白骨は気なり

 「夕べに白骨」などと冷や酒は飲まぬ

 奥能登の一と夜山法師に囲まれ


東国抄 2004/8.9 



  
今秋刊行予定の金子皆子句集に寄す
闘病の気韻の花びらを積みて

ここだくの柚子の口付け風呂の中

穴惑吾を訪ねきて歎く

紅梅二樹満開の曇天と暮らす

押し突きの力士桐の花了る

藻の揺れに呼ばれ麦秋の日本海


東国抄 200/7 183 


文債を積み込み朝寝へと船出

曇る日は連翹ことに顱頂に染む

濛然と枯木手を伸べわれを待つ
       
里山の春の祭の人の黙(もだ)

人に執し土に執して穴を出づ

川岸に泣く子数人蚕飼時(どき)



東国抄 2004/6 181 


天つ日へ鴉騒ぐぞ草餅食べろ

春闌けて尿瓶親しと告げわたる

雛冷えて人の白ら息外(そと)通る

いのち確かに老白梅の全身見ゆ

   
北野凡他界
亡き友と鵜飼の川の冬ざれに

   
整体を受けていた飛田勝雄氏他界
陽と囀りと一と日の奢り人逝くに



東国抄  2004/5    180 

川渡る蛇を愛せり昼闌けて

眠る男に女もたれて寝正月

  豊山千蔭他界
冬日かく明るし全盲の人逝きしに

薄氷に米国日本州映る

むささびの骸陽晒し旅長し

うーうと青年辛そう日向ぽこ


東国抄 2004/2.3      179  

月光に木は葉を捨てる冷まじや

けけけくくくと子どもが笑う白鳥来

頬に張りつく黄葉喜ぶ旅にあり   
     
大枯野寺は臍なり利根川(とね)は帯

畸俗は貴族と一人笑いのお正月

定住漂泊冬の陽熱き握り飯


東国抄   2004/1    178 
 
  
秋潮諸(もろ)に顔打つごとし平戸なり

鹿の声朝光やつと顔にとどく

少年老ゆ懸巣も百舌も鳴くわいな

山重なり人は赭顔に紅葉どき

風速を愛す日の鷹見上げては

男の児(こ)われ母よりいただきし餅肌
 


 

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